いま、舞台の幕が上がる。
それは まばゆい光を浴びながら
高揚し、踊りはじめる。
深紅、クリムゾン、スカーレット。
幾つもの紅をまといながら
鮮やかに、花、笑う。
舞台を見上げる者は、
その圧倒的な存在感に
呼吸も忘れ、ただ驚くばかりである。
フルーティーの潔い香りに
甘い感情をかき立てられて。
心、奪う
たった一本で
ほんの一瞬で。
それは イギリスのプリマドンナ
ダーシー・バッセルの名を冠した
誇り高きイングリッシュローズ。
杉本ばら園のイングリッシュローズは、本家イギリスのデヴィッド・オースティン社のお墨付きを得ています(正当な栽培農家として認められているのは、日本でたった二人だけ)。イングリッシュローズは、多弁の花型、ふくよかな香り、多彩な品種が魅力。デヴィッド・オースティン社が認めた品種のみがイングリッシュローズと称され、流通が許されています。
「どの品種を育てるか決めるのは、いちばん難しい。自分自身がその魅力にハッとして、お客さまにも愛していただけそうなものを厳選している。もうすぐ70歳を迎えるけれど、いまでも新しい品種が出たと聞けばトルコでもオランダでも世界中どこでも行っちゃうよ。英語なんて全然しゃべれないけどね!」一度植えたら数年は運命を共にする品種選定。杉本さんの選定が、数年先の流行を動かしているともいえます。
まっすぐしなやかな茎、先端までみずみずしくハリのある葉、高貴で洗練された花姿。
「茎・葉・花」三位一体の美しさが、杉本さんのバラを何度も日本一の称号に導いてきました。
栽培方針は、バラの生命力を見つめること。
簡単そうですが、バラ栽培をすこしでも知っていれば、それがどんなに難しいことかピンとくるはず。バラはとても繊細なのです。
肥料を過度に与えれば、一見立派に育ちます。ただ単に濃い葉色、大きな花形にすることは難しくありません。しかし、アンバランスに花が大きくなってしまうと、自立するだけで過剰なエネルギーが必要になります。本来は開花のためのエネルギーを自立のために使ってしまうと、花は咲ききらずに終わってしまうことに…。人のエゴで不要な圧力を与え、花の命を縮めるような栽培方法は好まない。自然に咲くバラのように、美しい花を咲かせることだけにエネルギーを集中させたい。
だから杉本さんは毎日バラの顔色を見ているのです。水の量、肥料、CO2、窒素、温度、湿度。すべての条件で過不足がないのが、理想です。
肥料を与えすぎないかわりに、自発的な光合成をしやすいよう枝を折るなど工夫する。刻一刻と変化するハウス内の諸条件を数分置きに記録して、科学的な裏付けを怠らない。担当する株は、他の人には触らせずに株の最後まで担当者が責任をもつ。防虫対策・病気対策は従業員一丸となって徹底する。「毎日顔色を見て、余計でない必要なことを丹念にやる。子育てみたいなもんよ。」
思うようにいかないことは、ごまんとある。
だけど、向き合いつづけることでしか光らない。
「ハサミを入れたときにカチっと音がする。それは、木がよく絞まっている証。株ぜんぶが元気ってこと。」
杉本さんのバラがあまりにも特別なのは、日本でいちばん、“咲いている”バラだから。
切り花の生産者にとって、「いつ切るか」は大きな問題。
早すぎれば咲かない花となり、
遅すぎると店頭で花が咲きすぎて、価値が下がる。
杉本ばら園のバラが、果てる際まで美しいのは
植物のエネルギーが最高潮を迎える瞬間に収穫されているから。
咲こうとする植物のエネルギーが、
花の終わりまで行き渡りつづける。
そんな一瞬の切り前を見逃さない。
最後まで咲ききるバラを育てる、杉本さんの流儀です。
「バラは、木で咲くのがいちばん美しい。それを知っているから、極力そのままを届けたい。」
実は杉本ばら園は出荷方法にも深いこだわりが。その名も“バケット縦型湿式”。バケツに2リットルの水を張り、移動時のこすれで花弁に傷が入らないようにていねいに包まれたバラを、水につけた状態で出荷しています。さらに、上部に空気穴を開けたダメージフリー段ボールを被せ、徹底的に守ります。生きたバラにほとんどストレスを与えずに運ぶこの方法は、オランダでは一般的なもの。しかし、トラック内で横に倒して何箱も積み上げることができないため、日本ではほとんど採用されていない方法です。オランダ視察中にこの方法に出逢い感動した杉本さんが、市場の方に頼み込み、特別に日本に輸入しています。そのうえクール便のトラックがハウスまで集荷に来て、直接市場に運びます。こだわりの箱で、徹底管理された状態でのみ出荷するのが、杉本式。
四方を山に囲まれた滋賀県蒲生群竜王町山の上。ブナ山脈を超えて届くふきおろしが適度な湿度を保ち、夏場でも比較的涼しい土地です。竜王町は乾燥と高温を嫌うバラ栽培に適した環境で、古くからバラ栽培が盛んでした。さらにいいのが、水。一年を通じて12〜13℃を保ち、水質変化が少ないといわれる地元の湧水はミネラルが豊富。地下130mから汲み上げた、バラがよろこぶ水で栽培しています。
杉本ばら園
バラの品質日本一を決める品評会において、
総理大臣賞や農林水産大臣賞など史上初の通算4度受賞
杉本ばら園は、杉本重幸さんとその妻、悦子さんがはじめました。悦子さんはいいます。
「わたしはね、子どもの頃からバラが大好きだった。バラを作る人になるのが夢だった。大人になって別の仕事をしていたとき、仕事の関係で重幸さんがものすごく借金をしてばら園をはじめるということを知ってね。こんな人と一緒になったら毎日バラを作れるな、面白そうだなと思って結婚してくださいって私から言ったの。夢を叶えてからは毎日楽しい。楽しくないことがあっても楽しい。気がかりなことがある日にバラを見ると、いつもよりバラが鮮烈に見えるのよ。毎日会話してるからかな。ね? いいでしょう。」
そう語るお母さんは、存在そのものがバラのようです。
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